【長ネギ】育苗で決まるネギの健全性 ~風速15m/sが教えてくれたこと~

育苗とは作物の一生を左右する「体質づくりの期間」
先日、長ネギの圃場で興味深い現象を確認した。風速15m/sを超える強風にさらされた後、育苗方法の違いによって葉先の損傷程度に明確な差が見られたのである。
品種、定植後の管理は同じ。施肥管理も同じ。違うのは育苗時の管理だけであった。育苗時にエキタン有機を使用した区では葉先損傷が少なく、葉がしっかり立っていた。一方、化成肥料主体で育苗した区では葉先の裂傷や枯れ込みが目立った。
さらに根を掘り上げて比較すると、その違いはより明確になった。エキタン有機育苗区では細根が多く、根群全体が大きく発達していた。対照的に化成肥料育苗区では根量が少なく、根群もコンパクトであった。
右6本 化成肥料 育苗
一般的には、「根量が多いから生育が速い」と考えがちである。しかし今回の結果から見えてきたのは、単なる生育速度の違いではない。むしろ、「根を先につくった苗」と「葉を先につくった苗」の違いである。植物は本来、根から養水分を吸収し、その養分を利用して光合成を行い、体を作る。 根が十分に発達している植物は養分不足を感じにくく、無理に葉を伸ばそうとしない。
その結果
・細胞壁が厚くなる
・カルシウムが十分に蓄積される
・糖が蓄積される
・組織が緻密になる
という現象が起こる。
つまり、見た目の生育速度はやや穏やかでも、植物体は充実していく。一方で、化成肥料によって初期から窒素が十分供給されると、植物は葉を急速に伸ばそうとする。
葉の伸長速度に対して根の発達が追いつかない場合、
・細胞壁形成が不十分
・水分含量が高い
・組織が柔らかい
状態になりやすい。
その結果として、強風時に葉先損傷が発生しやすくなる。今回の圃場で観察された現象は、「生育が遅いから健全」なのではなく、「根の発達と葉の生育がバランスよく進んだ結果として健全性が高まった」と考えるべきだろう。微生物バイオマス農法では、窒素で作物を押して育てるのではなく、
・根を育て
・微生物を育て
・光合成を高めること
を重視している。今回のネギの事例は、『育苗期の根づくりが、その後の健全性を決定する』ことを示す一つの実例である。風速15m/sという自然条件が、目に見えない根の違いを地上部に表してくれた。育苗とは単に苗を大きくする期間ではない。作物の一生を左右する「体質づくりの期間」なのである。
窒素要求度を低くし、炭素優位の栽培を実現する
今回のネギの事例から改めて感じたことがある。
それは、
「作物を大きく育てること」と
「作物を健全に育てること」は
必ずしも同じではないということである。
農業では長年、
「どう窒素を効かせるか」
が収量向上の中心にあった。
しかし窒素によって急激に生育した作物は、
・根量不足
・軟弱徒長
・病害発生
・倒伏
・追肥依存
を招くことが少なくない。
一方で、今回のエキタン有機育苗区では、定植後の管理が同じにもかかわらず、根量が多く、強風による葉先損傷も少なかった。
ここで重要なのは、
「窒素が少なかった」
ということではない。
重要なのは、
「窒素を大量に必要としない体質が形成された」
ということである。
根が発達した植物は養水分吸収が安定する。
すると光合成も安定し、多くの糖が生産される。
その糖は、
・細胞壁の形成
・根の伸長
・微生物との共生
・養分循環
に利用される。
つまり植物体内で炭素が蓄積されていくのである。
植物体を構成する主成分は炭素であり、窒素ではない。
窒素は生育を促進する重要な要素であるが、植物の骨格や強さを作るのは炭素である。
炭素が豊富な植物は、
・葉が厚い
・根が多い
・病気に強い
・風害に強い
・生育後半まで活力が続く
という特徴を示す。
これからの栽培で最も重要なのは、
「窒素を与えること」
ではなく、
「窒素要求度を低くすること」
だと考えている。
そのためには、
育苗期から根を育て、
光合成能力を高め、
炭素を蓄積できる体質を作ることが必要である。
微生物バイオマス農法が目指すものは、
肥料で作物を育てる農法ではない。
根を育て、
微生物を育て、
光合成を高め、
炭素を蓄積することで、
少ない窒素でも健全に育つ作物体質を育てる農法である。
今回のネギは、その考え方を改めて示してくれた。
窒素優位の栽培から炭素優位の栽培へ。
それは単なる肥料技術ではなく、作物の体質そのものを変える取り組みなのである。
